同好の士

楽毅』を読み終え、続いて通勤時間の友として選んだのが『子産』。もちろん既に何度か読んでいるが、うちにある宮城谷昌光氏の作品の中では比較的最近購入したため、まだ読んだ回数として片手で数えられるくらいであろう。
(『孟嘗君』や『天空の舟』はもう10回以上読み返している)
今日もカバンに『子産』を入れて、三国駅を8:31に出る電車に乗った。本当は8:24の電車に乗りたいのだが、このところの寒さでなかなか起きられず、1本遅い電車になってしまっている。
ドアの横のスペースに体を滑り込ませ、カバンから本を取り出そうと視線を動かした時、その視界を斜め前にいた人が読んでいる本の文章が通り過ぎた。
もちろん文章を読める速さではなく、内容は全くわからない。しかし、何かが脳裏にひっかかる。マナーが悪いのを承知で、改めて斜め前の人の本に目をやると、今度ははっきりと「風洪」という単語が目に飛び込んできた。
なんと『孟嘗君』を読んでいる!
その人は40代前半くらいのサラリーマン風の男性であったが、ゆっくりと視線が本の上を往復している。周囲の様子に気を取られることもなく読み進める姿は、恐らく初めて読んでいるに違いない。
いつまでもそうやって見ているのは失礼なので、私は本来の目的に戻り、カバンから『子産』を取り出した。もちろん男性はこちらには目もくれない。
全く見ず知らずの2人がたまたま同じ電車で隣り合い、同じ著者の作品を読んでいる状況にちょっとしたおかしみを感じながら、私は短い時間ではあるが読書に没頭した。
たまにはこんな通勤電車も悪くない。